タイトルに「文章術」とありますが、よくあるテクニック的なものを紹介した本ではありません。
しかし、この本を読むと「自分は今何を書いているのか?」を見失わずに「人に読んでもらえる」文章を書くポイントを学ぶことができます。
エントリーシートの書き方に悩む就活生、刺さる提案書が書けない営業の人、文章で食べていきたいライターの人、など書いたものを人に読んでもらいたい人必見の書だと思います。
こんにちは。nerio(@neriopapa)です。
本屋さんでこの本を手に取って何気なくパラパラとめくったところ、ある文章が目に入りました。
「『文章』と『文書』は違うもの」
「文章」と「文書」の違い、説明できます?
私は説明できませんでした。
何となく「文章」は小説やメールに使う文で、「文書」は仕事で使う文、、というイメージですが、これだと例を挙げているだけで説明にはなっていません。
答えは本の中に書いてありますが、この本の中で筆者が何度も説明しているのが、「言葉の定義を曖昧にしてはいけない」ということ。
文章を書くのであれば、そもそも文章って何なのか?を理解していないと人に読まれるものは書けない、ということです。
このパートだけ読んで私は強く共感したのでこの本を買いました。
メインパートは字が大きめなのでとても読みやすく、また共感できるところばかりで夢中で読んでしまい、1日で読み終えました。
その後2周めをゆっくり読んで興奮が冷めてきたところです。
ちなみに章ごとにメインパートの後にコラムが差し込まれているのですが、コラムの方が字が小さく、文章術らしいエッセンスが詰まっていてこちらも面白いです。
メイン→コラム→メイン、と字の大きさが変わるのが心地よい転調になっていて、気付いたら読み終わっていた、という感じでした。
また、本の前半では冗談も多く笑いながら読み進めるのですが、後半になると文体もちょっと真面目になってきてこちらも真剣になります。本の前後半で何となく文章の書き方も意図的に変えてメリハリを付けているのかな?と思いました。
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自分が読みたいものを書く
私もブログを書いている身として、どうしても読者のことを気にしてしまいます。
「この記事は誰が読むんだろう?」
「もっとみんなに読んでもらえる記事が書きたいな」
どうしてもアクセスが多い記事やバズる記事を書きたいという欲求があるのですが、筆者曰くこれは出発点から間違っていると。
なぜなら「人に読んで欲しい」ことだけを考えた記事は自分で読んで楽しくないので続かないんですよね。
そしてそのような文章は人にも読んでもらえない。
もっと自分の欲求のままに自分が読みたいものを書けばいいんじゃないか、そうすれば書くことが楽しいから続けられるし、人にも読んでもらえるんじゃないか、と筆者は説きます。
言葉の定義をあいまいにしない
筆者によると文章の9割は「随筆」だそうです。
そして随筆とは、
「事象と心象が交わるところに生まれる文章」
と定義されています。
- 事象:実際起きていること
- 心象:人が思ったり考えたこと
つまり、「こういうことがあった(=事象)から私はこう思った(=心象)」という流れになっている文章が随筆である、ということですね。
また、事象と心象のバランスが重要です。
事象寄りのものを書くとそれは「報道」「報告書」「ルポルタージュ」になるし、心象寄りのものを書くとそれは「小説」になってしまう。
つまり、人に読まれる文章(=随筆)を書くためには、常に「事象と心象、今私はどっちを書いているのか?」を意識しながら書くと、書いているものがブレずに書き進めることができるということ。
この言葉の定義をあいまいにしない姿勢に私はとても共感しました。
私はITコンサルティングの仕事をしていますが、後輩が作った資料をレビューしたり、自分で提案書を書いたりしています。
特に若手メンバーの作った資料にありがちなのですが、言葉の定義があいまいだと読んでも響かず、誰も動かせないんですよね。
会議でクライアントに説明しても何となくフワッと理解させることはできるものの、意見も反論も出ない。これだと前に進みません。
逆に言葉の定義を明確にしていれば、参加者の認識がずれることもないし、会議終了後に誰が何をすべきかがわかっているので仕事がはかどります。
筆者の定義によると仕事で使う文は「文章」ではなく「文書」なのですが、この本は仕事で作る資料やメールの文にも一工夫を凝らせるようになる気付きがあります。
就活生向けメッセージが熱い
第2章のコラムに履歴書の書き方について書かれています。
これもめっちゃ面白い。
正直どの就活本よりも参考になると思います。
何となく自分もモヤモヤしていた採用面接のあり方について全部クリアになった感じ。
就活のエントリーシートや面接で伝えるべきことは2つだけ
筆者曰く、就活で面接官に伝えるべきことは2つだけ。
- これまで何をやってきたか =自己紹介
- うちに入って何ができそうなのか =志望動機
そして、②の志望動機は筆者曰く結局ウソであると。
確かにそうなんですよね。
私も就活していた時は会社ごとにさんざん志望動機を考え、
「御社の業務内容に魅力を感じ、成長性が〜」
とか話していたような記憶がありますが、今から思えばかなり変です。
働いてもいないのに何で業務内容がわかるんだって話ですからね。
御社は成長性もあり〜、なんて言った日には、
「成長性をどうやって分析したの?」
って面接で聞かれてたらたぶん固まっていたと思いますし、その程度のものでした。
なので筆者は①の自己紹介に力を入れるべき、と説いています。
自分のことをしっかり語るべきだと。
そしてここで大事になるのが、
自己紹介をして、相手に判断させる材料を与える
ということです。
自己紹介する時に自分で自分を判断してはいけない
私も面接官として学生を面接することがよくありますが、多くの学生は似たようなことを話します。
「xxサークルで会長をやっていたので、リーダーシップには自信があります」
という類のもの。
本当にこういう言い方をする学生はたくさんいるのですが、筆者曰くこれはダメです。
リーダーシップがあるかどうか判断するのは面接官であって自分ではないからです。
サークルの会長をやっていただけではリーダーシップがあるかどうか判断できませんからね。形だけのリーダーなんて山のようにいるんだし。。
筆者曰く、大事なことはこの3つ。
- 具体的に自己を語る
- 面接官の記憶に残るようなキャッチーな経験談があるとなおよし
- 判断は面接官に委ねる
自分の経験したことをできるだけ具体的に、かつ論理的にわかりやすく説明しましょう、ということですね。
参考文献が全部面白そう
第3章のコラムで「書くために読むといい本」が紹介されています。
筆者は、「文章を書くのに文章術の本を読んではいけない」と言っています。
文章術は今まで読んできた本に影響を受けるものなので、文章術の本を読んで急に何かが変わることはない、と。
よって紹介されている本も文章術とは直接関係のないものばかりです。
その中で、私が面白そうだなと思ったものをいくつかピックアップしてみました。
ロマン・ロラン『ジャン・クリストフ』
筆者曰く
「長い」
とのことだったので調べてみたら全10巻もあるんですね。確かに長い。
主人公はベートーベンがモデルになっていると言われているそうですが、「芸術とは?」「信念とは?」といった巨大なテーマが描かれているので大長編になっているとのこと。
筆者は大長編や古典を読むべきと言っています。
古典がこれまで残っているのは面白いからだろうということですが、確かにそう思います。
しかし、私はこれまで古典と呼ばれるものはほとんど読んだことがありません。
だって長いんだもん。
他にも大長編の名作と呼ばれているものがいくつか紹介されているので、気になる方は読んでみてはいかがでしょうか。
私も時間を見付けたいと思います。。
司馬遼太郎『坂の上の雲』
これは私も読みました。
全6巻(文庫だと全8巻)ありますが、夢中で読んでしまった記憶があります。
筆者も突っ込んでいましたが、司馬遼太郎の小説の面白いところは小説にもかかわらず「ところで筆者は思うのだが」と急に司馬さんが乱入してくるところですね(笑)
開高健『ベトナム戦記』『輝ける闇』
開高健、これまで読んだことが無かったのですが、先日Amazonでポチりました。
筆者曰く、開高健は「コピーライター」「ルポ・随筆を書くライター」「小説家」の3つの立ち位置を横断して生きた作家であり、ライターを志す人であればどの立ち位置に立って書かれているかを検証することで多くの気付きを得られるだろう、とのこと。
筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』
小説家が書いたエッセイ(=随筆)ということで、事象と心象が語られています。
が、筆者曰く事象に触れて持ち出してくる仮説の飛躍と心象のヒューマニズムが面白く、内容が濃いとのこと。
これも読んでみたいと思いました。
まとめ
先日本屋さんで改めて「読みたいことを、書けばいい。」を見かけたのですが、置いてあったのは就活生向け面接対策コーナーでした。
ビジネス書なのか、就活生向けの面接対策本なのか、文章で食べていきたいライター向けの本なのか、難しいですね。不思議な本だと思います。
私はこの本を読んで、「文章書きたい!」と同時に「本読みたい!」って思いました。
ものを書く人、読む人全てにおすすめしたい本です。
それでは、nerio(@neriopapa)でした。